世界各地の先史岩面画に関心を抱く皆さんとの情報交換を行う場です。
by rupestrian
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「最古」論争

 ブログを再開して1週間たちましたが、まだ習慣化していないので、更新が滞ってしまいます。日本では、オウム関係など、大きなニュースがあり、40,800年というデータが出たことはほとんど報道されなかったのが残念ですが、もちろん、世界的にはScienceの表紙を飾った論文ですから反響も大きく、様々な問題が提起されています。そのすべてをフォローしているわけではありませんが、まずは「最古」という形容に関する論争を紹介したいと思います。今回「最古」という言葉が印象的に用いられたわけですが、もっと古い芸術が多くあるという議論が展開されたわけです。年代の問題は、今回のウラン系列による測定法に対する信頼性など、きわめて微妙であり、論者によって様々に扱われていますが、いずれにせよ、きわめて古い時代の人間の造形活動に関心のある研究者たちは、私もその最たる者ですが、「最古」すなわち「最初」の芸術という表現に敏感に反応するわけです。
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これは約7万年前の考古学的層から出土した赤土の塊であり、その表面に平行線や斜線が何本も刻まれています。南アフリカの海岸部に近いボロンボス遺跡の遺物ですが、この場合、年代にはそれほど疑念はないでしょう。制作者もホモ・サピエンスということで大丈夫でしょう。ネアンデルタール人の話は、またの機会に詳しく書くつもりです。
 問題はこれが芸術かどうかということであり、私自身は、人間の手の自働的な反復運動の産物とみなし、芸術であるとは考えておりません。芸術が、ブロンボスのような非具象的なかたちから始まるのか、それとも洞窟壁画の迫真的な動物像など具象から生まれたのかは、それぞれの研究者の芸術観にも関わる、決着のつかない問題かもしれませんが、私自身はリアルな動物像がどういう原理で制作されているのかを、従来から中心的な課題としており、ブロンボスの直線は、質的にも異質な事例と位置づけています。今回のデータでは、41400±570の赤い円盤が「非具象」、37,630±340の手形が「実物の転写」ということで、「最古」の具象的動物像としては、エル・カスティージョの黒色による動物像輪郭線の断片が22,800±270ということで、私の研究者としての「常識」の範疇にとどまっていて、まだ安心できる気がします。
 「最古」の芸術とは何か、これはまさに芸術の定義の問題でもあり、簡単には答えが出ませんが、今回のScienceの論文が、こういう根本的なテーマを照らし出してくれただけでも、意義深かったといえるのかもしれません。以上、腰砕けな結論ですが、これからもできるだけ頻繁に書き込んでゆくということで、お赦しください。
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by rupestrian | 2012-06-21 16:51 | 先史岩面画
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