世界各地の先史岩面画に関心を抱く皆さんとの情報交換を行う場です。
by rupestrian
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Pech Merle

 しばらく、批判的書評に終始したので、洞窟壁画に戻りたいと思ったが、今回は映画が出発点である。衛星の深夜テレビで『ルシアンの青春』というルイ・マルの作品を放映していて、約40年前の公開時に劇場で見た記憶はあったが、改めて最後まで見てしまった。内容は第2次世界大戦時のドイツ占領下のフランスで、10代の青年が対独協力者(コラボ)になってしまう物語で、余韻深く心にしみる名作だった。問題は、主人公の青年の設定で、ウサギをライフルで撃ちまくるなど、戦時下に鬱屈する内面をもてあましていて、それがゲシュタポに利用されたということもあっただろう。中でも、パチンコ(スリングショット)で鳥を殺す冒頭のシーンは印象的で、自転車で駆け巡る山野の雰囲気からも、私は、ペシュ・メルル洞窟の発見者であるダビッド少年のことを重ね合わせていたのである。撮影地もペシュ・メルルのあるロット県のフィジャックという町だと、最後のクレジットで知り、それはペシュ・メルルから約40キロのところである。ペシュ・メルルという独特な名前は長らく「ツグミ獲り」と訳されていて、発見者のダビッド少年がツグミ獲りを生業としていたから、この名前になったと説明されていた。私も、何の疑いもなく検証することなく、これを何度か書いた記憶があり,今となっては赤面ものである。
 今回念のため、ペシュ・メルルの名前の由来を文献で調べたところ、このような記述は見いだせず、それで、ペシュ・メルルのホームページを見たところ、地元の古い言語で「小高い丘」を意味すると書かれていて、まさに目から鱗が落ちる思いだった。簡単な辞書で「Merle」を調べると「ツグミ科クロウタドリ」とあったので、それ以上疑問を持たず、吹聴していたのだった。ダビッド少年の生業も「ツグミ獲り」ではなく、羊飼いだということで、これも訂正しなければいけない。おそらく他にも、洞窟壁画に関しても、世界各地の先史岩面画に関しても、受け売りで、自分で最後まで調べることなく、あたかも事実であるかのように書いていることがあるのではないかと、自分でも空恐ろしくなった次第である。今後は、どんな些細なことでも、徹底的に調べ直して、無責任なことを書いたり話したりしないようにしようと自戒した次第である。

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 上はペシュ・メルル洞窟の前で、この写真を撮った15年ほど前には、見学者が入洞まで、時間を過ごす場所になっていた。この洞窟は、近くのカブルレという村の公有で、春から秋まで一般公開している。リズミカルな線が伸びやかに走っている作品の質や、洞内の清浄な雰囲気など、私のお気に入りの洞窟の一つであり、これまでも何度となく訪れているところである。この洞窟を最初に調査したルモジ先生の著作は、私の統合論にとって欠かすことのできない重要文献であり、現在の調査責任者であるロルブランシェ先生は、世界的に尊敬されている、洞窟壁画研究の第一人者であり、私も親しくさせていただいている。これほど近しい洞窟の名前の由来を何十年も間違って理解していたというのは恥ずべきことであり、そういうことを気付くきっかけになった映画にも、単なるこちらの思い込みにすぎなかったが、その作品の質も含めて、評価し、感謝したいと思う。
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by rupestrian | 2012-11-13 18:47 | 先史岩面画
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