世界各地の先史岩面画に関心を抱く皆さんとの情報交換を行う場です。
by rupestrian
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2012年 07月 28日 ( 1 )

動物に変身した人間の自画像!?

 4月から毎週、洞窟壁画を論じる機会があり、今週、15回で最終回を迎えました。洞窟壁画の制作動機を考えることになりましたが、もちろん、数万年前の芸術作品に関し、作者たちがどのような生活をしていたかもわかっていない状況では、何を考えればいいのかもはっきりしないのが正直なところです。しかし、答えが出ないにしても、問題を設定して考え抜くことで、対象である洞窟壁画の本質に迫れるのではないかと期待して、日々悩んでいる次第です。様々なことを考慮しなければなりませんが、その一つに、人間と動物の関係をどう捉えるか、という課題が未解決のまま残されているのです。洞窟壁画には、一目見て何を表しているかわからない「記号」も多く表現されていますが、最も目を引くのは、写実的な動物像であり、私自身も、なぜ洞窟壁画を制作した作者たちが、本物と見まがうビソン(野牛)などを描ききることができたのかを、長年追求しているところです。それはいずれこの場でも詳しく紹介したい「統合」という観点から明らかにしようとしていますが、まずは人間にとって動物とはどのような存在なのかを、射程に入れなければなりません。
 最近、研究者の間で話題になっているのが「シャーマニズム説」で、これは南アフリカの作例からデヴィッド・ルウィス=ウィリアムスが提唱したもので、洞窟壁画にも適用可能ではないかと議論を呼んでいるわけです。
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上の作品は、上半身が動物で、下半身が人間のように見えますが、これをそのままリアルなイメージであると素朴な美術観で考えると、実際にこのような存在がいて、それを見たまま表現したものだという解釈に至るしかないでしょう。「シャーマニズム説」では、これを動物に変身しているシャーマンの途中の姿をそのまま描写した「自画像」であると説明するのです。「シャーマン」は、他の人から見れば、ただの人間のままですが、その意識においては、動物に変身することで、人間を超越した力を獲得できるのであり、完全な動物像であっても、それは、実際の動物を描写しているのではなく、動物に変身しきったシャーマン自身の、その意識における自画像であると解釈するのです。洞窟壁画など、先史岩面画に描かれている動物像は、現実に存在する動物を描出しているわけではなく、シャーマンの意識における自分自身の姿を表現したものだという結論に至るのです。
 この驚くべき考え方は、美術というものは、現実にせよ、意識内にせよ、「実際に」存在するものを、「見えた」まま表現したものである、という単純な前提から出発しており、それだけで美術の実相から離れている、とんでもない理論であるといわざるを得ません。美術は、目に見えないものを目に見えるようにする技術でもあるのであり、上の半人半獣像(「ハイブリッド像」とも呼びます)も、現実に存在しないのはもちろんのこと、作者の意識にあらかじめ「変身中」の姿としてある必要もなく、あくまでも作品として初めて存在したものであると考えないといけないのではないかと、芸術学を標榜する研究者として、主張したいところです。こういう考え方に関しては、また近々書き込みたいと思っています。
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by rupestrian | 2012-07-28 17:36 | 先史岩面画