世界各地の先史岩面画に関心を抱く皆さんとの情報交換を行う場です。
by rupestrian
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ヴァンダリズム

マカピーです。このブログでは、先史岩面画そのものに加えて、先史岩面画に対する人々の対応などを書いたりもしていますが、こういう短い文章という場では、その方が扱いやすいという面はあるでしょう。それで、今回は「ヴァンダリズム」についてです。「芸術破壊行為」と訳しますが、元々は古代ローマに侵入して、その文化を破壊したとされる「ヴァンダル人」に由来することばで、彼らにすれば、なぜこのような不名誉なことに自分たちの名前が残され続けているのか、首をかしげていることでしょう。
さて、下の写真は、ブラジル北東部のピアウイ州にあるサリトレ遺跡群の一つの岩陰にある作品です。右に4本の平行する垂直線、左には両腕を挙げた人物像、2本の平行線、そして、内部が何本もの平行線で充填された細長い四角形がありますが、左の3つのかたちには、白い部分が見えます。写真ではもり上がっているようにも見えますが、実際は、作品を礫で打ち欠いた痕跡であり、まさにヴァンダリズムの現場です。無惨極まりない状態ですが、どういう経緯でこのようなことが起こってしまったのでしょうか。「犯人」は特定されているようですが、複雑な事情が絡まっていて、検挙されてはいません。それはなぜなのでしょうか。
ピアウイ州は世界的にも先史岩面画の集中している地域の一つであり、今年6月には国際学会も開催されました。この地域は、早くも1991年に「セラ・ダ・カピヴァラ国立公園」として世界文化遺産に登録されており、それはこの地域に分布する先史岩面画の存在によってです。しかし、この地域のすべての遺跡が登録されたわけではなく、詳しい事情は私も知りませんが、なぜか外された部分もあったのです。写真の岩陰はサリトレという土地にあり、独自のデフォルメされたかたちが印象的な作品が多く見いだされています。世界文化遺産の範囲外であり、「犯人」は地元の青年だとのことです。その動機ですが、自分の誇りにしていた作品が、なぜか世界文化遺産から外され、その疎外感から、一種の自傷行為と解釈できるのでしょうか、作品を打撃したとのことでした。ここには、簡単にはうかがい知れない人間精神の深淵も垣間見えるようであり、安易に言及すべきではありませんが、ユネスコ世界遺産という日の当たる場所もあれば、そのすぐそばで、かえって闇に沈む所もあるということは、忘れてはならないでしょう。
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by rupestrian | 2009-11-24 19:30 | 先史岩面画

ホピの「予言の岩」

マカピーです。今回は時事ネタに寄り道してみます。マヤの人々のカレンダーが2012年12月21日で1サイクルが終わることにこと寄せて、「2012」というトンでもない映画が公開されるとのことですが、その関連番組を何気なく見ていたら、何と先史岩面画が登場してきて、非常に驚きました。しかも、前に女性誌の記事を紹介したときと全く同じ作品を取り上げていて、2度ビックリしました。北アメリカ大陸の先住民の一つである、ホピの人々のテリトリーで発見されている作品です。非常に流通している画像なので、著作権はとりあえず無視して、下に転載します。先の日本人画家は、これを見ると人生の行くべき道がわかるなどとおっしゃっていて、2012年がらみでは、人類に選択肢が二つあって、上の道を進めば、ジグザグ線になって、これは滅ぶことを意味しているとのことです。下は、危機を自覚して、正しい選択をすれば、滅亡を回避できるとのことです。まあ、芸術作品の解釈は自由なものかもしれず、何を言っても別に誰の迷惑にもならないかもしれませんが、、ちょっと度が過ぎるような気がします。この作品も、ホピの人々の直接の先祖が制作したものではなく、民族移動の結果たどり着いたところにあったというかたちで、まあ、先住民による神話的解釈という、それはそれで傾聴すべき内容ではありますが、それを時流に乗って針小棒大な解釈へと展開することは許されることではないでしょう。これも先史岩面画研究がまだ世界的に確立していない結果、このようなトンデモ勢力に言及されてしまうのかもしれず、自戒のきっかけとして、あえて取り上げた次第です。
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by rupestrian | 2009-11-20 13:26 | 先史岩面画

作品の状態

マカピーです。ようやく中国の北方に戻りましょう。写真は、内蒙古自治区の烏海市近郊・卓子山遺跡群の毛爾溝(マオエルゴウ)という遺跡の作品ですが、「仮面」と解釈される作品の周囲が四角く白濁しています。これは、複製を作るために型を取ろうとして、シリコンを貼り付けた痕ではないかという意見があり、私もそうではないかと思いました。言語道断なことであり、このように作品を損壊することは犯罪といっても過言ではないでしょう。数千年前に制作されて、その後自然の環境変化の中で若干の風化はあったでしょうが、我々の世代まで残ったものを、密着した型から複製を作りたいという利己的な目的で、台無しにするというのは、本当に情けないことです。まさに、人間こそが、この脆弱な美術作品に対する最強の破壊者であり、文化財を次の世代に、そしてさらに将来に受け渡すためにも、地道な教育が最も重要な文化財保護策であると考えるゆえんです。中国で、そして我が国においても伝統的な「拓本」も同罪であり、岩面および刻線内の情報を、今はまだ解析できないにしても、次代にそのまま残すことこそが、現在の我々にできる唯一のことでしょう。
ここまで書いてきたことは何も「チャイナ・プロブレム」を指摘しているわけではなく、先史美術研究を初期に指導したフランスやスペインでも前世紀初めには、もっと残酷なことをしていることは指摘しなければなりません。フランスでは優美なサケの浮き彫りを、ドイツ人研究者がその周囲にタガネを打ち込んで、えぐり取ろうとして、何とか途中で阻止できたということがありましたし、スペインでも、岩陰の動物像の彩画をはぎ取って、それは現在でもバルセロナの博物館に展示されています。先史岩面画は、まさに制作されたその場所にあり続けていることに、その重要な存在意義があるのであり、いかなる理由があっても、そこから切り離すことは認められません。また、下の写真は、四角い痕跡が残っていますが、これも、周囲の岩面の連続の中に作品があることこそ大切なのであり、それを四角に区切るという発想自体が、作品存在を誤解しているのではないかと疑わざるをえません。我が国のフゴッペ洞窟においても、発見されたばかりの岩面刻画の四角い石膏型を粘土の密着で作成しているのですから、偉そうなことはいえません。
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by rupestrian | 2009-11-18 17:41 | 先史岩面画

花山

マカピーです。しばらく更新ができませんでした。まだまだ習慣化しているとは言い難いところです。もう一度中国戻ることにしますが、すぐに北方ではなく、一度ヴィエトナム国境に近い広西チワン族自治区の「花山(ファシャン)」遺跡の作品を見ることにしましょう。銀川でも、賀蘭山遺跡群が世界文化遺産になるかどうか志向されていましたが、そのライバルと認識されていたのが、花山でした。下の写真は、川縁の大きな岩壁一面に制作された彩画の一部ですが、独特の両腕両脚を広げたポーズをとっている人物像は高さ1メートルにもおよび、その存在感は圧倒的です。私は、1991年の銀川での国際学会で研究発表したあとで、欧米の参加者と中国を縦断して花山にまで行きましたが、同行の世界からの研究者もこれを見たいと思って、ビザなど幾多の障害を乗り越えて、今回の国際学会に来ることにしたと言っていたほどで、それは私にも共感できるものでした。この種の野外の彩画で、これほど巨大な作品は世界的にも珍しく、やはり世界文化遺産に値するものであると評価できるでしょう。制作年代を決定するのは困難ですが、銅鼓とおぼしき丸いかたちや環刀太刀と解釈できるかたちが多く描出されていることから、それが作られていた、約2,000年前という説が妥当なところでしょうか。花山に関しては、早くも1987年に中日英の3カ国語版の作品集が京都の光琳社によって出版されており、樋口隆康先生が、実見していないと断りつつ、一文を寄せておられます。20年以上前に15,000円もした豪華本で、私も何とか入手して、いつか見たいものだと憧れていたことを覚えています。なお、このあたりの先史岩面彩画の遺跡は花山だけではなく、中心都市の南寧を流れる左江という川の上流の川岸に多くの遺跡を認めることができます。
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by rupestrian | 2009-11-16 16:33 | 先史岩面画

女性誌の記事

マカピーです。レヴィ=ストロースからアメリカ大陸つながりということで、少し古い情報になりますが、紹介します。家にあった週刊誌『女性自身』11月10日号に先史岩面画が掲載されていましたので、お知らせします。このような、一般的な雑誌に、モノクロであろうと、先史岩面画の写真が載ることは珍しいことであり、報告に値すると考えました。記事は、ある日本人女性画家がアメリカ合衆国南西部で制作していて、その発想の源泉の一つに岩面画があるという、ものでした。まあ、今なお流行しているのか、スピリチュアル系のネタであり、偏った部分もありますが、ここは目を瞑って、多くの、特に女性に先史岩面画が目に触れたことを歓迎したいと思います。既に新しい号が発売していて、入手できないかもしれませんが、アメリカ合衆国南西部の先史岩面画も多彩であり、下記リンクなどでご覧いただいたらいいのではないかと思います。どうもリンク設定がうまくできませんので、すみませんがURLをコピー・アンド・ペーストしてください。
http://indra.com/~dheyser/index.html

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by rupestrian | 2009-11-09 14:19 | 先史岩面画

追悼、レヴィ=ストロース

マカピーです。フランスの人類学者のレヴィ=ストロースが100歳で大往生されたことを知り、少し本筋からそれますが、書いてみることにします。30年も前の学生時代に、『野生の思考』などを辞書を引きながら読んで、ゼミで発表したことを思い出します。レヴィ=ストロースは、美術愛好者としてその著書の中でも多く言及していますが、私の知る限り、残念ながら、先史岩面画について何かを述べた箇所はないようです。しかし、美術を理論的に考察している文章から、私も大いに影響を受けて、論文に引用したりして、いっぱしのレヴィ=ストロース読み、であるかのように装っていた時期もあったように覚えています。
下の写真は、ブラジルのマト・グロッソ州にあるフェラズ・エグレージャという遺跡の作品で、これを見るために近くの村に滞在していたときに、ボロロの人々に出会いました。少し離れた集落に住んでいるが、サッカーをするために、チームでトラックの荷台に乗ってこの村にやってきたとのことでした。ボロロの人々はまさに『悲しき熱帯』に登場してくる、主役級の存在であり、レヴィ=ストロースがかつてフィールドワークをした地域にいることを感慨深く思いました。
写真の作品は、高温多湿のジャングルの中にある遺跡ですが、彩画がよく保存されています。ブラジル出身でフランスで活躍しているアゲダ・ヴィレーニャ・ヴィアルという研究者が、そのフランス人の夫で洞窟壁画専門家であるドゥニ・ヴィアルとともに発掘していた遺跡の上の岩面に発見されたもので、層位のとの関係は難しい問題ですが、抽象的な形態が鮮やかです。
今日は、ほとんど無関係ですが、ブラジルの岩面彩画を見ることで、私なりにレヴィ=ストロースを追悼しました。
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by rupestrian | 2009-11-05 12:52 | 先史岩面画

風景につつまれて

マカピーです。中国から帰ってきてまだ1週間、日常には戻りつつも、余韻をたのしんでいます。もちろん、これまで見たこともないような作品を眼前にできたことが一番のよろこびですが、同時に、作品を取り囲む風景の中に、自ら身をひたしたことも、忘れられない体験です。先史岩面画は、もちろん、今回の中国でも、元あった位置から切り離されて、博物館などに鎮座しているものもありましたが、本来はそれが制作されたまさにその場所にあり続けていることにその本質的な存在意義があるのであり、もちろん、時間の流れの中で、緑が少なくなったりと景観は変わっていることでしょうが、作者たちがこの風景につつまれて線を刻んだのだ、と実感できることが大切だと、私は思います。先史岩面画のある場所は、発見された洞窟などを除くと、現在では乾燥化して、人里離れたところが多いのも特徴です。そのため、到達するだけでも困難なところもありますが、その分、そこに至ったときのよろこびは大きいものがあり、また、普段は見ることのできない風景に接することができることも、調査の楽しみの一つです。下の写真は、内蒙古自治区烏海市近くの卓子山遺跡群の中の「苦菜溝(クカイゴウ)」遺跡の様子であり、左右に岩壁が伸びて奥に向かっている様子が印象的です。参加者の中には、映画の『インディ・ジョーンズ』の中に迷い込んだようだとの感想もありました。この写真では、皆さんが右の岩壁で調査しており、前景には、中国人のガイドさんと案内担当者が後ろ姿で写り、、そして、一番近くで、何とこんなところまで電波が来ているのか、携帯で話しているのが、5日間お世話になった運転手です。
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by rupestrian | 2009-11-04 17:03 | 先史岩面画

「太陽神」

マカピーです。引き続き中国の話題ですが、下の写真は、賀蘭山(ヘランシャン)遺跡群の中でも代表的な賀蘭口(ヘランコウ)遺跡の、その代表的な作品の「太陽神」と呼ばれているものです。そういう意味では、近くの銀川という都市を、さらには寧夏回族自治区を代表する「アイコン」とでもいうべきかもしれません。実際、このかたちは、シンボル・マークのように活用されていますし、なんといっても、我々が銀川市で4泊したホテルが「太陽神大酒店」という名前だったのですから、この命名のインパクトは大きいと認めざるを得ません。しかし、このかたちが本当に「太陽神」をあらわしているかというと、その解釈は何の根拠もないのであり、キャッチ・コピーが一人歩きしているという感は否めません。この地域にある「人面」とも「仮面」とも解釈されているかたちの中でも最も華やかな存在感があり、それで、元々は誰かが何の気なしに「太陽神」と名付けただけだろうと思います。しかし、一旦、名前を持ちはじめるとそれは独自の人格のようなものを持ってしまうのであり、そこから、これは太陽を崇拝していた人々が作ったのだろうという推測へは、すぐ一歩のところまで来ているでしょう。そうすると、太陽を崇拝するのは農業をする人々だろうから、それを生業にしていた人々が住んでいただ時期は、この周辺では云々、、、という議論が延々と続いてゆくことになるでしょう。もちろん、そのような話の中で、作品に対する観察が深まったり、様々なアイディアが湧いてきたりと、メリットもないことはないでしょうが、やはり、まずは無前提に、虚心に作品に立ち向かって、あらゆる事を感じて、考えてゆきたいものだと思います。
作品それ自体も、写真でもわかるとおり、拓本のとりすぎのせいか、かなり黒ずんでいます。これはこれで重大な作品破壊であり、今後は決してすべきことではないでしょう。表情がかげって「太陽神」が少し悲しげに見えるのは私だけでしょうか。
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by rupestrian | 2009-11-02 17:19 | 先史岩面画