世界各地の先史岩面画に関心を抱く皆さんとの情報交換を行う場です。
by rupestrian
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世界遺産リスト

 以前にも書いたことがあるが、この「日本先史岩面画研究会」は国際的にはユネスコ傘下のイコモス(国際記念物遺産委員会)岩面画委員会(CAR)の日本支部という性格を持っており、世界文化遺産の岩面画関係の遺跡に関しては、その日本語訳などにも責任を持とうとしているところである。長くなるが、以下の25の遺跡を岩面画関連と認識していたが、先週、NHKの衛星放送で世界遺産関連の番組を見ていて、26件目があることを初めて知った次第である。うかつにも、世界に745件もある文化遺産と、29件の複合遺産の中で、そのすべての登録要件をチェックしているわけではないので、まだまだ欠落もあるかもしれないので、皆さんからのご指摘を期待するためにも、下記のリストをご覧いただきたいと思う。

世界文化遺産・先史岩面画関係遺跡リスト(登録順・25+1カ所)

1ヴェゼール渓谷の先史時代史跡群と洞窟壁画群 フランス(79)
2ヴァルカモニカの岩面刻画 イタリア(79)
3カカドゥ国立公園 オーストラリア(81,87,92)
4タッシリ・ナジェール アルジェリア(82)
5アルタミラ洞窟とスペイン北部の旧石器時代洞窟壁画 スペイン(85, 08)
6アルタの岩面画 ノルウェー(85)
7タドラット・アカクスの岩面画遺跡群 リビア(85)
8ウルル-カタ・ジュタ国立公園 オーストラリア(87,94)
9カピヴァラ山地国立公園 ブラジル(91)
10サン・フランシスコ山地の岩面彩画 メキシコ(93)
11タヌムの岩面刻画 スウェーデン(94)
12イベリア半島の地中海沿岸地域の岩面画 スペイン(98)
13コア渓谷とシエガ・ベルデの先史岩面画遺跡群 ポルトガル・スペイン(98,10)
14リオ・ピントゥラスのクエバ・デ・ラス・マノス遺跡 アルゼンチン(99)
15ウクハランバ/ドラケンスベアク公園 南アフリカ(00)
16ツォディロ ボツワナ(01)
17ビーマベトカの岩面画遺跡群 インド(03)
18マトボの丘 ジンバブエ(03)
19タムガリの考古的景観における岩面刻画 カザフスタン(04)
20コンドアの岩面画遺跡群 タンザニア(06)
21チョンゴニの岩面画 マラウイ(06)
22ゴブスタンの岩面画と文化的景観 アゼルバイジャン(07)
23トゥウェイフルフォンテーン ナミビア(07)
24オアハカ渓谷中央部のヤグルとミトラの先史時代洞窟群 メキシコ(10)
25モンゴル・アルタイ地方の岩面刻画遺跡群 モンゴル(11)

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 上の写真は、下記、番組により新しく認識した遺跡の作品写真で、これで26件となる。
26ワディ・ラム保護地域 ヨルダン(11)

 今年度も夏に自然遺産も含めて26件の新規登録があったが、とりあえずは岩面画関連の遺跡はなさそうであり、しかし、かつての登録の中で、要件に岩面画の存在が組み入れられているものもあるだろうから、今後鋭意精査してゆきたい。

 岩面画は、世界遺産の登録が始まった当初から、有力な研究者がイコモスに参画していて、日本での知名度の割には、比較的多くの遺跡が登録されてきているかもしれない。また、加盟国が最初の登録に挑む際に、岩面画が要件として認識されやすいという事情もあるのか、例えば、上記23番目のナミビアでは、未だに唯一の世界遺産となっている。逆に、世界遺産登録数が多い大国、例えば、アメリカ合衆国、中華人民共和国、ロシア連邦などでは,国内に多く分布している岩面画遺跡は一つも登録されておらず、世界遺産に登録されていることと、先史岩面画遺跡の充実とは直接関係がないということになるだろう。これはあらゆるカテゴリーにもいえることだろうし、世界遺産に登録されたから意義深いということではない、ということも、イコモス傘下の団体としては、自己矛盾も感じないわけではないが、明らかにしておく必要があるだろう。
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by rupestrian | 2012-11-26 12:53 | 先史岩面画

Pech Merle

 しばらく、批判的書評に終始したので、洞窟壁画に戻りたいと思ったが、今回は映画が出発点である。衛星の深夜テレビで『ルシアンの青春』というルイ・マルの作品を放映していて、約40年前の公開時に劇場で見た記憶はあったが、改めて最後まで見てしまった。内容は第2次世界大戦時のドイツ占領下のフランスで、10代の青年が対独協力者(コラボ)になってしまう物語で、余韻深く心にしみる名作だった。問題は、主人公の青年の設定で、ウサギをライフルで撃ちまくるなど、戦時下に鬱屈する内面をもてあましていて、それがゲシュタポに利用されたということもあっただろう。中でも、パチンコ(スリングショット)で鳥を殺す冒頭のシーンは印象的で、自転車で駆け巡る山野の雰囲気からも、私は、ペシュ・メルル洞窟の発見者であるダビッド少年のことを重ね合わせていたのである。撮影地もペシュ・メルルのあるロット県のフィジャックという町だと、最後のクレジットで知り、それはペシュ・メルルから約40キロのところである。ペシュ・メルルという独特な名前は長らく「ツグミ獲り」と訳されていて、発見者のダビッド少年がツグミ獲りを生業としていたから、この名前になったと説明されていた。私も、何の疑いもなく検証することなく、これを何度か書いた記憶があり,今となっては赤面ものである。
 今回念のため、ペシュ・メルルの名前の由来を文献で調べたところ、このような記述は見いだせず、それで、ペシュ・メルルのホームページを見たところ、地元の古い言語で「小高い丘」を意味すると書かれていて、まさに目から鱗が落ちる思いだった。簡単な辞書で「Merle」を調べると「ツグミ科クロウタドリ」とあったので、それ以上疑問を持たず、吹聴していたのだった。ダビッド少年の生業も「ツグミ獲り」ではなく、羊飼いだということで、これも訂正しなければいけない。おそらく他にも、洞窟壁画に関しても、世界各地の先史岩面画に関しても、受け売りで、自分で最後まで調べることなく、あたかも事実であるかのように書いていることがあるのではないかと、自分でも空恐ろしくなった次第である。今後は、どんな些細なことでも、徹底的に調べ直して、無責任なことを書いたり話したりしないようにしようと自戒した次第である。

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 上はペシュ・メルル洞窟の前で、この写真を撮った15年ほど前には、見学者が入洞まで、時間を過ごす場所になっていた。この洞窟は、近くのカブルレという村の公有で、春から秋まで一般公開している。リズミカルな線が伸びやかに走っている作品の質や、洞内の清浄な雰囲気など、私のお気に入りの洞窟の一つであり、これまでも何度となく訪れているところである。この洞窟を最初に調査したルモジ先生の著作は、私の統合論にとって欠かすことのできない重要文献であり、現在の調査責任者であるロルブランシェ先生は、世界的に尊敬されている、洞窟壁画研究の第一人者であり、私も親しくさせていただいている。これほど近しい洞窟の名前の由来を何十年も間違って理解していたというのは恥ずべきことであり、そういうことを気付くきっかけになった映画にも、単なるこちらの思い込みにすぎなかったが、その作品の質も含めて、評価し、感謝したいと思う。
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by rupestrian | 2012-11-13 18:47 | 先史岩面画

創造力なき日本

 先史岩面画とは直接関係がありませんが、最近ずっと本の批判的紹介を続けていますので、その流れの中で一冊の本に言及したいと思います。村上隆『創造力なき日本:アートの現場で蘇る「覚悟」と「継続」』(角川oneテーマ21)という本ですが、現在の日本に基盤を置く日本人美術家の中で、例外的に世界でも受け入れられている人物の新刊です。執筆の対象がもう一つはっきりしませんが、組織の運営に関する考え方なども書かれていて、ビジネス書としても売りたいという考えがあるのかもしれません。私自身は、ここでこれまで述べている、作品と作者の関係を考えさせられる機会となりましたので、ここでもコメントしたいと考えた次第です。

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 私は、何万年というスパンで美術を学んでいる立場なので、「200年のうちに残される10作品」という歴史的認識は正しいと思いますが、その一つになる作品を必死になって作ろうとしている、という記述には首をかしげざるを得ませんでした。美術史上の作品で作者がわかっていて、しかもその人となりが明確なものは、せいぜいこの500年以内に作られたものだけであって、それも時代時代によって、評価する軸が変化し、例えば、最近日本でも人気があるオランダのフェルメールにしても、死後すぐにその名前が忘れられて、200年以上後に「再発見」されて、評価されるようになったのにすぎないのです。美術史上の作品にとっては、作者とはその作品の小さな一部にとどまり、また、それを過大視して,解釈などを決めつけない方がよいというのが、私の研究者としての信条です。作者もまた、「見えるもの」である作品を力を尽くして作ったのであり、亡くなって「見えないもの」になってしまった作者のことを考慮しすぎることは,作品そのものの力を見誤ってしまうのではないかと危惧しています。
 村上隆は、この本にも書かれているように、美術の社会的存在感を高めるために、様々な活動もしていて、本当に頭が下がる思いです。経済的にも、作品を売却した高額の利益を自らの贅沢な生活に用いず、後進の育成などに向けているなど、私はこの本で初めて知りましたが、ご本人はいやだと思いますが、美術家というより社会活動家というべき、尊敬に値する人物ではないかと見直しました。そんな作者のモチベーションが「死後の名声」だと、この本では述べているわけですが、これは上記の通り、眉につばをつけた方がいいのではないかと私には思われました。さらに、主宰されている「カイカイキキ」という団体を日本の「狩野派」のような、何百年も続く組織にしたいという野望も、畏れおおいように私には思われました。「狩野派」についてそれほど知るわけではありませんが、室町時代に発祥して、安土桃山時代に有力な武将に重用され、そのまま江戸時代を通じて、支配的な流派になったというのも、偶然の積み重ねの結果であり、一人の傑出した人物がそれを望んだところで、実現するとはとうてい考えられません。
 以上、現在日本を代表する美術家の意気込みを表明した本として、本書は読むに値するようにも思われますし、私自身は、作品と作者の関係を改めて考える機会とすることができ、読んでよかったと思っています。先史岩面画も仲間内から作った人は認識されていたでしょうが、それはあくまでもみんなの代表として実際の制作に携わっただけであって、自己表現した「作者」ではなかっただろうと思います。この「作者」という近代的存在を忘れ去ることは、私自身近代に生きる者として、なかなかできませんが、できるだけ虚心に作品という「見えるもの」だけを対象にしたい、と改めて考えています。
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by rupestrian | 2012-11-05 18:30 | 先史岩面画