世界各地の先史岩面画に関心を抱く皆さんとの情報交換を行う場です。
by rupestrian
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ショーヴェ洞窟壁画の年代

 先史美術の研究仲間である、イギリスのPaul G. BAHNからメールがあり、驚くべき論文が添付されていた。ドイツの先史時代に関する学術雑誌Quartärの最新号に掲載された

Chauvet cave’s art is not Aurignacian: a new examination of the archaeological evidence and dating procedures

というもので、まさに約32,000年前の制作とされているフランス南部のショーヴェ洞窟壁画がそこまで古いものではなく、いくつかの時代に分けて制作されたのではないかという主張をしているようである。なかには20,000年前より新しいとされている、有名なラスコーと同時期のものもあるのではないかとのことである。まだ全文を精読しておらず、その根拠をここで紹介することはできないが、私も、ショーヴェが人類最古の美術であるということを前提にして、近年の議論を展開しているので、ショックを否定することはできない。筆者はJean COMBIERとGuy JOUVEというフランス人研究者で、フランス語の論文を英訳したのが上記BAHNで、美術の起源論的議論を行っている研究者に全文を送ってくれたようである。最初のページだけは下記アドレスで見ることができるが、全文が必要という方は、末尾のメールアドレスまでご連絡いただければ、添付でお送りすることにしたい。

http://www.quartaer.eu/pdfs/2012/2011_combier_abstr.pdf

 下の写真は論文にも引用されている「相対する2頭のサイ」の部分で、この作品から32,000年前というデータがAMS法により得られたのである。

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 元々発見された直後には、12,000年前の制作ではないかという意見もあったわけであり、その後AMS法による驚くべき年代が出され、それに対しても、しばらくは疑義の念も表明されていたが、10年以上経過して、年代が確定したものとして様々な議論が展開されるようになった矢先の、揺り戻しであり、私としても戸惑うしかないところである。しかし、先史美術研究のような分野では、知見は日進月歩であり、新たな発見があれば、これまでの教科書も書き換えられなければならないのである。美術史を専門とする者としては、科学的な年代測定法は門外漢であり、結果だけを甘受するしかないのが残念なところである。まあ、しかし、嘆いていても仕方ないので、この論文を精読して、より思考を鍛えてゆきたいと考えている。

日本先史岩面画研究会 ganmenga@gmail.com
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by rupestrian | 2012-12-20 17:42 | 先史岩面画

岩面美術

 河出書房新社から9月に刊行された『人類の進化大図鑑』という豪華本を最近になってようやく読んでいたら、途中で「岩面美術」の見開きのページがあり、世界各地の「岩面画」作品がレイアウトされていた。問題は「岩面美術」という訳語で、急いで英語の原書の方を確認したら当然「Rock Art」になっていて、それを「岩面画」ではなく、もちろん我々が撲滅しようとしている「岩絵」でもなく、こういう訳語を採用する考え方に興味を持った次第である。
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 日本語版の監修は、東京上野の科学博物館におられた馬場悠男先生で、ご苦心の末の判断であろうと忖度された。科学博物館では、何年も前に一度洞窟壁画に関するシンポジウムが、スペインの専門家を招いて、開催されたことがあり、私も聴衆として出席し、その後の歓迎会で、ご一緒したこともあった。それで、馬場先生も岩面画という用語にも一定のご理解があるだろうとは思っていた。しかし、「Rock Art」を「岩面画」ではなく「岩面美術」と訳すのは、新鮮な気がしたので、あえて言及させていただくことにした。こういう細かいことにこだわってしまうのは、妙に偏執的で気をつけないといけないが、「art」を「画」とつい訳してしまう傾向が美術研究者にはあるのは、自ら認めなければならないだろう。「美術」とストレートの訳す方が、その存在感を明瞭にして、一般的にも問題を提起できる気がするが、どうしても美術の中の一ジャンルとして位置づけたい気が先立って、美術の一部である「画」という用語を採用してしまうのではないか、と今回自己分析した次第である。もう何十年も「岩面画」ということばにこだわってきているので、今更「岩面美術」とはなかなかいえないが、今回のこの熟考されたであろう訳語に触れて、改めて「岩面画」の存在意義に関しても、考え抜きたいと思った次第である。
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by rupestrian | 2012-12-11 17:26 | 先史岩面画

中国最古の線刻

 Sci-News.comという科学関係のホームページを見ていたら、約30,000年前の線刻のある石灰岩の石片が発見されたというニュースが載っていた。

http://www.sci-news.com/archaeology/article00755.html

 もとは今年の7月にChinese Science Bulletin という英語の雑誌に掲載された論文で、なぜか、今頃になって紹介され、私もようやく知った次第である。石片が発見されたのは中国の寧夏回族自治区の「水洞溝遺跡」であり、私も、2009年に近くの賀蘭口遺跡に先史岩面画を共同研究で調査に行った際に、訪れたことがあった。元々、洞窟壁画研究を打ち立てたフランスのブルイユなどが最初に調査した遺跡であり、研究史的な関心もあって、研究仲間と立ち寄ったのである。保護屋が建設中で、遺跡そのものは見ることができなかったが、遺跡を中心に、明代の城郭遺跡なども含めて史跡公園として整備されていた。現在では、工事も終わり、快適に見学できることだろう。

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 1980年代の発掘で出土した石片を改めて観察して線刻を確認したとのことである。放射性炭素年代測定法などで、石片が出土した層の年代は約30,000年前と確定し、これは妥当なところかもしれない。石片は長さ約7cmで、肉眼でも8本の線が刻まれていることがわかる。論文では、様々な機器を駆使して、画像分析の結果、人為であることを確認している。

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 上の写真は、上記論文の図版を転載したもので、技術的問題で、上下に分かれてしまって、確認しにくいことをお許しいただきたい。あまりにも断片的で、何らかの形象を意図したものとは認めがたい。また、明確な造形意志も確認しがたく、やはり、石灰岩の断片に機械的に繰り返されたストロークが痕跡として残っただけではないか、と考えるしかないのではないだろうか。人為的な線刻を芸術と見なすか否かは、やはり、それぞれの研究者の芸術観にもとづく、主観的判断に基づかざるをえないところがあり、私は偏狭なようだが、先に紹介した南アフリカの約70,000年前のブロンボス出土オーカー片も含めて、造形意志の産物とは思えないのである。もちろん、地元で発掘した研究者の努力は尊いし、ナショナリズム的見地から、自国で発見されたものがより古い美術作品であると主張したい気持ちもわからないわけではないが、ただ古さを競争するだけではなく、外部からの視点も導入する必要があるだろう。論文それ自体はデータ提出など堅実なものであり、今後精読して、より詳しく検討したい。
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by rupestrian | 2012-12-03 16:55 | 先史岩面画