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『洞窟のなかの心』
このたび、8月1日に刊行されたばかりの『洞窟のなかの心』(講談社)をようやく入手することができた。近年旺盛に活動している多摩美術大学芸術人類学研究所により翻訳が予告されていたものであり、どうなったのかと思っていたが、ついに日の目を見たようである。著者はデビッド・ルウィス=ウィリアムズで、以前にこのページでも言及した「シャーマニズム説」の提唱者で、最近の『Conceiving God』(Thames & Hudson)など、人気絶頂の研究者である。内容は、先に批判したとおり、意識のなかに実在するイメージの「具象的」な表現という、素朴な芸術観から出発して、その原理を様々な分野の都合のよい主張だけをつまみ食いして突き詰めてゆくというトンデモナイものであり、逆にこのようなエンターテインメント的なものでもないかぎり、日本語では洞窟壁画の本が出版されないという現実を突きつけられているのかもしれない。
![]() 翻訳は港千尋のクレジットになっており、以前に予告されていた訳者だけでは完成されなかったのか、あるいは著名な著者を表にする出版事情なのか、「訳者解説」でいわれているほどには訳文が統一されていないようで、出版物としてもう少し熟成させてもよかったのではなかったのではないかという感想を持った。おそらく同時に出版されて、装丁にも統一感のある中沢新一『野生の科学』(講談社)との密接な関係もあったのではないかと邪推できそうである。訳文は今後検討できればとも思うが、このページが主張している「岩面画」を例によって「岩絵」と訳しているなど、どうしても否定的な受け止め方をせざるを得ないのである。 ここまで極めて批判的に紹介してきたが、洞窟壁画を主題とする本が日本語に翻訳されたことの意義は大きいともいえ、それがやはり洞窟壁画に関する最も新しい、といっても10年以上前のことだが、日本語の本『洞窟へ』(せりか書房)を著した港千尋の訳者名で出版されたのは当然のことなのだろう。ここに、わが国における洞窟壁画紹介のメインストリームがあり、こういうページでしか自己表現できていない「日本先史岩面画研究会」というマイナーなところから自嘲的に何を言ってもどこにも届かないのだろう。もちろん、我々は堅実に洞窟壁画研究を継続しているという自負があり、海外の学会でも研究発表を行ったり、現地調査を積み重ねたりしているが、それが日本語の環境のなかに、ほとんど影響を及ぼしていないことも、冷静に認めなければならない。もっと翻訳すべき業績は、洞窟壁画研究のなかにも多くあるのであり、選りに選って、世界的にも学術の世界を逸脱して人気を博しているルウィス=ウィリアムズなのかという幻滅はあるが、これが現実の文化というものであり、それを少しでもよりよきものにするために、ささやかであろうとも、研究者として力を尽くしてゆきたい、と思うきっかけにはなった読書ではある。
by rupestrian
| 2012-08-16 15:53
| 先史岩面画
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